法的感覚の欠落 ~たとえば相続~

投稿者: | 2012年6月3日

法律や,経済観念は,「生きていくための知恵」です

同じ100万円でも,

・今日もらうのと,1年後にもらうのとでは,

・担保があるのと,担保がないのとでは,

・証拠が固いのと,グレーなのとでは,

経済的価値が 全く異なります。

たとえば1万円未満の金を貸すなら,担保も取らないし,契約書も作らないかもしれない。

それでいいのは,返済を期待できることが多いし,万一返らなくてもダメージが少ないから。

でも,100万円単位,あるいはそれ以上の時にも,きちんと備えない人(企業)が,とても多い。

日本人には,「相手を信用する」という気質があるようです。

 

「相手を信用」といっても,背景は色々。 代表的には,次の2タイプでしょうか。

(1) 他人を信じる のが美徳だと思う
それなら,裏切られても「見る目が無かった」と諦めるのが美学。

(2) 相手の 人間性と 経済能力を 取り違える
上述の「生きていくための知恵」が,不足しています。

 

日本人は,とかく,勧善懲悪のストーリーが好きです。

因果応報という宗教的世界観が,広く,深く,浸透しているのでしょう。

つまり,「悪いことをすれば,不幸が訪れる」という信仰。

裏を返せば,「正しいことをしていたら,不幸は訪れない」との幻想

でも,いざ紛争に巻き込まれた時,

「自分は正しいから,救済されるはず(べき)」というのは,通用しない

手遅れの状態で弁護士に相談されても,為す術はありません。

備えあれば憂いなし。 備えなくば憂いあり,です。

「泣き寝入り」を憂いても,備えをしなかった「後の祭り」です。

 

「後の祭り」の典型が,相続紛争

当事務所でも,よくご相談を受けます。

遺言書のない相続では,法定相続分で分けます。

寄与分や特別受益の主張で,多少の調整はありますが,ほとんどの場合,微調整の程度です。

たとえば長男が,次男は放棄してくれると期待し,その通りにならなかったとしても,「後の祭り」。
「見る目が無かった」と諦め,備えなかったことを憂うしかありません。

また,最近よく見るのは,姉妹が,兄弟に内緒で,自分への遺言書を書いてもらうパターン。
兄弟(長男)は,親が亡くなってから遺言書の存在を知り,青くなる。 でも「後の祭り」です。

 

当事務所の方針として,できないことはできないと,はっきり言います。

それをご承知頂いた方に限って,法定相続分をベースにしつつ,多少でも有利になるように主張していくことを,助言します。

精一杯やりますが,正直,限界があります。

 

相続事件を 扱えば 扱うほど,事前に備えておくことがいかに大切かが,身に沁みます。

相続の備えは,遺言書です。


親に遺言書を書いてもらいたい方

あなたが,親の遺産(の一部)について,どうしても確保しておかなければならない事情がある場合,何かのタイミングで,親に頼んで,遺言書を書いておいてもらうことが必要です。

言い出しにくい場合には,顧問弁護士や顧問税理士をダシに使う方法もあります。

たとえば,事業経営において,

・会社の資産が,一部でも,親名義である場合,

・親が,株(出資口)を持っている場合,

・親が関係する事業用の借り入れがある場合,

などでは,必ず,絶対に,遺言書が必要です。 経営者としては,避けて通れません。

法律は,万民に平等なのです。

長男,次男,姉・妹の,誰にも,法律は,肩入れしません。

あなたが,親の事業を継いでいても,先祖の田畑を耕していても,親の介護を担ったとしても,法律は,あなたが期待するほど,肩入れをしてくれません。
「『跡継ぎ』と言われていた」とか,「『財産は全てお前のもの』と言われていた」とかの事情は,法的には,あまり意味がありません。

遺言書に書かれたことが全て

遺言書がなければ白紙スタート

もちろん,法の平等を,あなたに有利に 働かせることもできます。 今のうちならば。


遺言書を書くことをお考えの方

遺言書は,生前には 何度も書き変えられます。 でも 当然ながら,いざ発動してから(あなたが亡くなってから)は,内容を変えられません。

なので,ご懸念に対し,予め十分に対策しておく必要があります。 相続紛争の現場を知った弁護士に相談・依頼しなければ,安全ではありません。

資産が大きい場合は,税理士にも,相談した方がいいですね。