脳脊髄液減少症に大きな動き

投稿者: | 2011年11月7日

今年は,脳脊髄液減少症に大きな動きがありました。
毎日新聞が,詳しく解説しています(抜粋)。

髄液漏れ,早期診断に光 患者存在「確認」厚労省研究班報告
(2011.6.8 毎日新聞:クローズアップ2011)

 脳脊髄液減少症(髄液漏れ)に関する厚生労働省研究班(代表 嘉山孝正・国立がん研究センター理事長)の中間報告書は,髄液漏れの存在を認め,関心が高かった交通事故などの外傷による発症も「決してまれではない」とした。
 研究班には,脳神経外科や整形外科など関係する学会の代表が加わっており,診断基準が確定すれば,早期診断・早期治療体制の確立につながることが期待される。

【課題は後遺症救済】
 研究班は,患者の各種画像の判定基準や診断のフローチャートの各案について,各学会の了承を得る作業を進めており,まとまれば,髄液漏れの見逃しや過剰診断は無くなると見込む。
 研究班は「頭を高くしていると頭痛が始まったり,ひどくなる」患者100人を分析し,16人について髄液漏れが「確実」と判断した。いずれも頭痛が悪化するまでの時間は30分以内だった。
 発症原因は,外傷5例,腰への注射1例,重労働1例,原因なし9例だった。外傷5例の内訳は,交通事故2例,交通事故以外の頭頸部外傷2例,尻餅1例。「交通事故による発症の有無」などがこれまで裁判などで焦点になっていたが,研究班は「外傷が契機となるのは,決してまれではない」と認めた。
 髄液が漏れていると推定された部位は,頸椎5例,頸胸椎6例,胸椎3例,腰椎2例だった。

 報告書は,各種画像に関する判定基準(案)も提示。
 診断のフローチャート(案)では「頭を上げていると30分以内に頭痛が悪化する」患者について,頭部と脊髄をMRIで検査し,硬膜の状態などを確認し,両方かどちらかが判定基準に合致する「陽性」ならば,髄液漏れと見なす。
 陰性だった場合でも,造影剤を使った「ミエロCT」と呼ばれる検査や,微量の放射性元素で目印を付けた特殊な検査薬を使う「脳槽シンチ」で髄液漏れかを判断する。

【損保,迫られる姿勢転換】
 髄液漏れが社会的な注目を集める理由の一つは,補償を巡って患者と事故の加害者・損保業界側が対立し,多くの訴訟が起きていることだ。
 2005年春に報道で訴訟が相次いでいることが表面化。その後,事故と発症との因果関係を認めた司法判断も数例が明らかになったが,多くの判決で患者側の主張が退けられているのが実態だ。
 今回の報告書は,損保業界側の姿勢の転換も求めることになりそうだ。

 訴訟では,三つの診断基準が司法の判断基準に使われてきた。
 患者側は,診断に積極的な医師グループ「脳脊髄液減少症研究会」のガイドライン(2007年)を基に髄液漏れを主張。
 これに対し,損保業界側は,国際頭痛学会の診断基準(2004年)と,日本脳神経外傷学会作業部会の診断基準(2007年)を否定の根拠とする傾向にある。

 患者側の大きな障害の一つが,国際頭痛学会の診断基準が,この病について「(治療法として知られる)ブラッドパッチで72時間以内に頭痛が消失する」としていることだ。
 ブラッドパッチを受けた後も頭痛が消えず,後遺症への補償を求める患者は少なくないが,同学会の基準では「髄液漏れ」にはならない。患者側代理人の経験が多いある弁護士は「ブラッドパッチの効果が大きければ髄液漏れと認め,なかなか治らなければ認めないという司法判断が定着すると,後遺症への補償は認められないことになってしまう」と指摘。研究班が診断基準としなかったことを評価しつつ,「後遺症の基準も早くできてほしい」と話す。

【患者「一刻も早く保険適用を」 治療1回20~30万円】
 患者団体「脳脊髄液減少症患者・家族支援協会」(和歌山市)の中井宏代表は7日,厚生労働省で記者会見し「極めてまれだと言われてきた髄液漏れが,認められ,非常に大きな影響力がある。一刻も早く,治療の保険適用を実現してほしい」と訴えた。

 昨年4月には,厚労省が検査に保険適用を認めることを通知。長妻昭厚労相(当時)が2012年度の診療報酬改定の際に,ブラッドパッチの保険適用を検討する方針も明らかにしている。
 ブラッドパッチは,患者本人から採った血液を注射して漏れを止める。1回に20万~30万円程度かかるという。

更に,フォロー記事。

髄液減少症の診断基準 「漏れ」以外の患者,課題
(毎日新聞 2011年10月15日:クローズアップ2011)

【脳脊髄液減少症の概念】
 日本で「交通事故などによって髄液が漏れた患者が多数いる恐れがある」と主張され始めてから10年。厚生労働省研究班は脳脊髄液減少症の原因の一つとして「髄液漏れ」の画像診断基準を定め,患者の救済へ向け大きく前進した。
 ただ,患者の間には,「漏れを見つけきれないのでは」との不安の声があるうえ,漏れ以外の原因で同症になった患者もいるとされる。
 治療法への保険適用も今後の焦点だ。

 研究班の中間報告で診断基準の内容が明らかになった6月以降,損保と交渉中の人たちからは,「今回の診断基準に合致しなければ,補償されなくなるのではないか」と不安の声が上がるようになった。
 こうした危惧について研究班は中間報告書で,「まず第1段階として,『脳脊髄液漏れ』が確実な症例を診断するための基準で,その周辺病態の取り扱いに関しては,更なる検討が必要である」としており,更に研究を進めることにしている。

 国際頭痛学会も診断基準を見直す方向にある。頭痛の分類や診断基準をまとめた「国際頭痛分類第2版」(2004年)の作成に加わった研究者らのグループが4月,基準改定を提案する論文を米国頭痛学会の機関誌「ヘッデイク(頭痛)」の電子版で発表。症状が考えられていたより多彩だと認め,「多くの患者が現行基準を満たさない」と国際頭痛分類の不備を指摘した。
 論文では新たな基準を提案している。 ▽特徴的な症状の起立性頭痛について「15分以内に悪化する」としてきたが,時間制限をしない ▽ブラッドパッチ療法で「72時間以内に頭痛が消える」としてきたが,完治には2回以上必要なことも多く,「ブラッドパッチで症状が持続的に改善する」とする▽髄液漏れを画像で確認できなくても診断可能–などだ。

 国際頭痛分類は日本の訴訟で,患者の訴えを退ける理由によく使われてきた。しかし,大阪高裁は今年7月,「外傷が(発症の)契機になるのは,決してまれではない」とした研究班の中間報告などを理由に,国際頭痛分類を「厳しすぎる」と批判し,患者の発症を認めた。
 国内外の基準見直しの動きは,訴訟の行方にも大きな影響を与えそうだ。

【ブラッドパッチ治療,「先進医療」扱いで負担軽減へ】
 患者の関心が高かった治療法「ブラッドパッチ」への来年度からの保険適用は,診断基準の決定が診療報酬改定の審議開始に間に合わなかったため難しくなり,研究班は次善の策として「先進医療」の申請準備を始めた。
 保険適用とならなくても,先進医療が認められれば,認可された医療機関では,ブラッドパッチに必要な検査や入院費用に保険が適用される。ブラッドパッチそのものには適用されないが,1回の入院で計30万円程度という患者の負担は大きく軽減される。厚労省の担当者は「申請には速やかに対応したい」と説明し,来年の早い時期にも始まりそうだ。

 患者たちが保険適用にこだわるのは,種々の国の制度を動かす突破口となるからでもある。
 労災保険,自賠責保険,障害者手帳,障害年金など,患者が改定を望む制度は多岐にわたる。

脳脊髄液減少症とは,脳・脊髄を覆う硬膜内を満たす脳脊髄液が,何らかの原因で減少することに由来する,頭痛や吐き気,めまいなどの症状のことです。
脳脊髄液の減少により,脳の位置を正常に保てなくなるのが原因と言われています。

症状のひどさに対し,原因が一見して明らかでないため,周囲から心身症(心の問題)と揶揄されたり,賠償金獲得が難しく,健康保険診療も使えず,多額の治療費を自分で払わなければならない等,患者は,二重・三重の苦痛を受けています。

一番の問題は,脳脊髄液減少症について,医師の間でも,否定的な意見が多かったことです。
裁判所は,医学的知見に基づいて判断するので,医学界で認められていない疾患を,独自に認定することには,慎重にならざるを得ません。
裁判でも,患者(被害者)の主張を認めてもらうには,大変な困難がありました。

厚生労働省が牽引して,診断基準を設定したことは,大きな前進です(診断基準は,研究班のホームページで公開されています)。
ただ,記事でも指摘されているように,今の診断基準は,かなり厳しいような印象を受けます。

記事では,今後,保険診療化や,自賠責や,社会保険の改定を望む,と締め括られています。
もう1つ,疾患として認知されることで,治療方法の研究が進むことも 期待したいところです。

更に,法律家としては,事後救済の有無,遡及の範囲などにも,関心があります。
今後,制度の推移を見守るとともに,法理論としても,研究する意義がありそうです。