(毎日新聞2010年3月6日より)
財団法人「中部盲導犬協会」(名古屋市港区)が,トラックにはねられて死んだ盲導犬の育成費など約600万円の損害賠償をトラックの運転手と運送会社に求めた訴訟の判決が5日,名古屋地裁であった。松田敦子裁判官は「盲導犬は社会的価値を有し,育成費を基礎に考えるのが相当」として294万円の支払いを命じた。
一方,一緒に事故に遭った視覚障害者の男性(74)=静岡県吉田町=が運転手らに求めた慰謝料支払いについては請求を棄却した。
判決は,盲導犬の客観的価値について「視覚障害者の単なる歩行補助具ではなく,つえなどとは明らかに異なる」として「盲導犬は商品」との被告側の主張を退けた。原告側によると,盲導犬は平均して10年間,協会から視覚障害者に貸与される。事故に遭った盲導犬は貸与から約5年後だった。判決は,事故がなければ活動できた残りの期間を5年間と見て損害額を算出した。
この裁判では,(1)所有者には,犬の死亡によって損害が発生する,(2)所有者から犬を貸与されていた者には,いかに愛着があろうと,慰謝料請求権はない,と判断されました。
動物は,法律上は,物です。
被告側は「盲導犬は商品」と主張したようです。 盲導犬になる犬は通常は血統書付きですから,その犬種の市場価格をもって,損害額と認定すべき,といった主張だと思われます。
他方,所有者の方では,「育成費」等を損害として主張しました。
しかし,上記(1)の判断は,このいずれでもないようです。
裁判所は,盲導犬が今後生み出したであろう価値を算定して,それを,損害と認めました。 いわゆる「逸失利益」の考え方であり,人間が被害になった場合と同様の算定手法です(記事では,「育成費を基礎に考えるのが相当」との判断が為されたとありますが,損害算定方法はそのようになっていません。不正確な記事です)。
法律上は物である動物も,ペットとして愛情を注いでいた場合には,飼主には慰謝料請求権が認められることがあります。
上記(2)の判断は,盲導犬として強い信頼関係があったであろう視覚障害者男性の請求を棄却したものであり,シビアな判断だと言えます。