(下野新聞2010年03月04日より)
公証人が作成した公正証書の遺言が信用できないとして,宇都宮市内の男性(50)が遺言に従い所有権移転された土地建物の登記抹消を求めた訴訟の判決が3日までに,宇都宮地裁であった。竹内民生裁判官は「遺言は効力がない」と判断,登記を抹消する手続きを命じた。
書式の不備で無効になる恐れがある自筆の遺言に比べ,公文書である公証人作成の遺言公正証書は,信頼性が高く,安全確実とされる。日本公証人連合会(東京都)は「確定していない個別案件にコメントできないが,(公正証書の遺言を無効とした判決は)極めて異例」としている。判決によると,公証人(昨年8月に退職)は2008年10月22日,壬生町の病院を訪問。原告男性の父親から遺言を聞き取ったとして,土地建物などを父親の知人女性に遺贈する遺言公正証書を作成した。父親は翌日死亡した。
公証人は訴訟の中で「(父親の)発言ははっきりしており,意識は明瞭だった」と文書回答したが,竹内裁判官は「公証人が病室を訪れた時には,病状が悪化し,意識レベルが低下した状態にあった。(父親は)自ら公証人に告げたとは考えがたく,公証人の問いかけに対し,声を出してうなずくのみだった」と判断,遺言の有効性を否定した。
公証人は,公証人法に基づき,法務大臣が任命する公務員です。公証人役場に勤めています。
公証人の仕事の中心は,公正証書の作成です。公正証書遺言は,これに含まれます。
公証人は,ほとんどが,裁判官や検察官を退官した人たちです。 このため,制度的にも,実務上も,公正証書には高度の信頼性が置かれます。
緊急の場合のために,公証人が出張して遺言者から遺言を聞き,遺言書を作成するという制度があります。
緊急時にも遺言できるので,とても有益な制度です。
しかし,遺言者が緊急の状況にあるだけに,意思確認については,慎重にも慎重を重ねる必要があります。 このため,遺言は,遺言者による「口授」(口述)が為されることが必要です。
この事例では,入院中の患者であり,原告側は,主として,病状についての医師等の判断を根拠に,遺言者が遺言することができなかったことを主張したはずです。
裁判所にとっても,公正証書の効力を否定することは,よほどのこと。
病状は相当に悪く,とても口授できる状況ではなかったものだと思われます。
公正証書遺言の無効は「極めて異例」であることは間違いありませんが,争点となること自体は多く,口授の点で無効とする裁判例も,散見されます。