(読売新聞2010年6月9日より)
女子中学生にみだらな行為をしたとして逮捕され,起訴猶予となった沖縄県内の公立中学校の男性教諭(37)(休職中)が「県警の実名発表で名誉を傷つけられた」などとして同県に損害賠償を求めた訴訟の上告審で,最高裁第2小法廷(竹内行夫裁判長)は教諭の上告を退ける決定をした。決定は4日付。教諭の敗訴が確定した。1審・2審判決によると,県警は2007年3月,教諭を同県青少年保護育成条例違反容疑で逮捕し,その事実を教諭の実名とともに発表したが,那覇地検は同11月に起訴猶予とした。
1審・那覇地裁と,2審・福岡高裁那覇支部は,「(否認するなど)逮捕の必要性があった」と指摘した上で,「県警が実名で発表したことは社会的に許容される」としていた。
起訴猶予というのは,検察官が「犯罪の嫌疑はあるが,情状その他の事情に鑑み,裁判にかけることはしない」と判断した場合のことです。
これに似たものとして,不起訴というのがあります。これは,検察官が「犯罪の嫌疑なし」と判断した場合です。
新聞報道等では両者がごっちゃにされることもありますが,本件の記事の記載を信じれば,犯罪の嫌疑があったケースです。
犯罪の嫌疑があったとしても,裁判で有罪となった訳でもない,単なる容疑者の段階です。
ここで問題になるのは,「無罪推定の原則」との関係です。 これは,裁判で有罪となる以前は,無罪と推定する(罪を犯したものして取り扱ってはならない)という,刑事訴訟法の大原則です。
本件では,報道機関ではなく,実名公表した県警に対して行われた訴訟ですが,今のマスコミの多くは,捜査段階でも実名報道を基本としていますので,県警が実名発表すれば,自動的に,実名報道されます。
「無罪推定の原則」の趣旨を考えれば,逮捕段階(有罪となる前)で,実名にて,あたかも犯罪者のようにとられる報道を受けるなんて,とんでもないことのようにも見えます。
しかし,最高裁は,実名公表を,是認しました(ひいては,実名報道も許容されるのでしょう)。
マスコミは,逮捕時は,非重大事件でも報道しますが,処分が決定した段階では,よほどの大事件でもない限り,まず報道しません。とくに,起訴猶予・不起訴となった場合は,「ニュース価値がない」として無視されます。
こういうのって,極めて,アンフェアです。
最近,マスコミの中でも意識の高いところは,極力,実名公表を控えるようにしています。
最高裁としても,より高い見識を示して頂きたかった,と思います。