(asahi.com2010年3月31日より)
京都府宇治市の学習塾「京進宇治神明校」で2005年12月,小学6年の生徒が,アルバイト講師の萩野裕受刑者(27)=殺人罪などで懲役15年確定=に刺殺された事件で,生徒の両親が,塾を運営する京進(京都市下京区)に計約1億3081万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が31日,京都地裁であった。
松本清隆裁判長は京進の使用者責任を認め,同社に計約9893万円を支払うよう命じた。判決は「塾の教室で営業時間中に,塾の講師が殺害しており,使用者責任に基づく賠償責任がある」と述べた。京進側は控訴しない方針。
判決は「使用者が,被使用者が負うべき損害賠償額と同等の責任を負うことはやむを得ない」と指摘したうえで,全労働者の平均賃金をもとに,紗也乃さんが生存していれば将来稼いだであろう賃金から生活費などを差し引いた金額を3624万円と算定。さらに,萩野受刑者が紗也乃さんに与えた恐怖や苦痛に対する慰謝料を3500万円,紗也乃さんを失い精神的衝撃を受けた両親に対する慰謝料を各700万円とし,公判の傍聴や記者会見に同席した弁護士に払った費用などを加えて賠償額を導き出した。
使用者責任という制度があります。 従業員が他人に被害を与えたときには,雇用主がその責任を負う(対外的には,その従業員との連帯責任)というものです。
従業員が,故意に犯罪行為を行ったときまで,雇用主が責任を負うのか。 ケースバイケースですが,記事の事例では,雇用主の責任を認めました(この裁判では,雇用主側の方で,使用者責任を争わなかったようです)。
気になったのは,損害金額です。
死亡に対する慰謝料(両親の慰謝料を含む)は,事故等による死亡の場合に比べ,かなり高額です。 犯罪被害という事情が,慰謝料の金額を上乗せさせたものと思われます。
法の仕組みは,従業員の責任=雇用主の責任,なのですが,事実上,雇用主が責任を果たすしかない場合においても,従業員が犯罪を行ったという事情による慰謝料の上乗せ分を,雇用主にそのまま負わせてもいいものか(この裁判でも,争点の1つだったようです)。 この点,裁判所は,雇用主にそのまま負わせる,という判断を示しました。
理屈としては正当ですし,被害者側の立場からすれば当然と言われると思いますが,雇用主にとっては過酷という印象も受けます。
何にせよ,使用者責任は,雇用主にとって,重い責任,深刻なリスクです。