(毎日新聞2010年3月26日より)
私的に発行している新聞に町民ら6人の名前を掲載した関ケ原町の浅井健太郎町長に,計102万円の支払いを命じた25日の岐阜地裁大垣支部の判決。
堤雄二裁判官は「プライバシーへの配慮を怠った悪質な不法行為」と厳しく指摘した。大垣市内で会見した原告側弁護団は「プライバシーと表現の自由がぶつかり合ったときの判断のメルクマール(指標)を示した歴史的な判決だ」と評価した。名前を掲載された6人は,いずれも町を相手取った別の訴訟の原告。この訴訟は,小学校の統廃合を巡って住民グループが町に提出した反対署名簿を使い,町職員が戸別訪問したのは人権侵害だとして,住民が町に損害賠償を求めて係争中。
浅井町長は「判決文が届いていないので今の段階でコメントはできない」としているが,控訴するとみられる。
名誉毀損は,名誉を傷つける表現について,成立します。
この判決は,名誉を毀損しなくても,公開されたくない情報については,公開してはならない,と示したものです。
裁判は公開のものです。 原告の氏名も,原則として,公開されます。
なぜ,裁判は公開なのか。 それは,国家が密室裁判を行うことを否定するのが,憲法の定めるルールだからです。
ただ,調べれば分かるということと,周知するということは,全く意味が異なります。
調べれば分かる公開情報であっても,それを積極的に周知させる行為を無制限に許して良いか,それが,本件の争点です。
実際の裁判では,氏名を表記する必然性,氏名を公開されたくないとの心情,氏名を表記する意図・目的,といったことについて,議論されたはずです。
どこまで一般化できる判例なのかは,判決文の中身を見てみないと分かりません。
なお,「判決文が届いていない…」とのコメントですが,民事事件の場合,判決は法廷で読み上げられ,誰でも傍聴して聞くことができます。 ただ,原告・被告は,判決を聞くために出頭する義務はありません。
判決は,法廷で読み上げられた後,判決文(書面)となって,原告・被告双方に届けられます。 そこに,1,2日のタイムラグが生じます。
報道は速報性を重視しますが,この関係で,当事者(とりわけ敗訴した方)のコメントでは「判決文が届いていない…」というのが,いわば定番です。