(日経新聞2010年3月26日より)
依願退職した社員が,競合会社を立ち上げ顧客を奪ったのは違法として,元勤務先が元社員らに損害賠償を求めた訴訟の上告審判決で,最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は25日,「自由競争の範囲を逸脱した違法な行為とはいえない」との判断を示した。そのうえで,元社員らに計約720万円の賠償を命じた二審・名古屋高裁判決を破棄,請求を棄却した。退職後に元勤務先の競合事業に乗り出すことが違法かどうかについて最高裁が判断を示すのは初めて。
同小法廷は判決理由で,「元勤務先の営業秘密に関する情報を用いたり,信用をおとしめるなどの不当な営業活動をしたとは認められない。退職によって元勤務先の営業が弱体化した状況を殊更利用したとも言い難い」などと指摘した。
競業避止義務。 時折,会社の方からご相談を受けます。 辞めた社員がライバルになった,というご相談です。
法律上は,職業選択の自由が関係します。
一度,勤めをしたことによって,同業他社に転職したり,同種の事業を自ら行ったりすることに制限が加えられるのか。
従来の裁判例も,原則として制限はない,と判断する傾向がありました。
この最高裁判例で,とどめです。
2つ,意義があります。
1つは,「自由競争の範囲」を逸脱しない限り,不法行為にはならないこと。
もう1つは,「自由競争の範囲」を逸脱すれば,不法行為となること。
逸脱行為としては,(1)元勤務先の営業秘密情報を利用したり,(2)元勤務先の信用をおとしめるような営業活動をしたり,(3)一斉退職等で元勤務先の競争力を奪って,それを殊更に利用したり,といったことが例示されました。 より具体的には,事例の積み重ねによって,ボーダーラインが形成されてくるのを待つしかありません。
この最高裁判例の射程範囲は,退職従業員一般について及ぶと思われます。 ただ,退職役員は,射程範囲外でしょう。