(日経NET2009年12月27日より)
政府は企業の特許使用権(ライセンス)の保護強化に乗り出す。特許保有企業の経営破綻やM&A(合併・買収)で対象技術の所有権が移転しても,その特許を使っている企業が利用を続けやすくする。
現在は特許契約を特許庁に登録しないと,特許の新しい所有者から利用差し止めや損害賠償を請求される危険がある。これを,登録無しでも既存の契約が継続できるようにする。早ければ2011年にも新制度の成立を目指す。
現状でも特許庁に契約の登録をすれば,権利の移転に際し特許利用者は保護される。だが実務上は,事業戦略にかかわるライセンス契約を登録によって公表するのを避けたい企業が多く,登録制度を利用する企業は少ない。特許庁によると,2008年の特許契約(通常実施権)の登録件数は560件で「国内の契約数の1%に満たない」(大手メーカーが参加する日本知的財産協会)という。
法改正の予定についての情報です。
若干,解説します。
法には,「売買は賃貸借を破る」という格言(原則)があります。
物の利用に関する契約は,その契約当事者間でのみ有効であり,物の所有者が変わったら賃貸借契約の効力は無くなる,という意味です。日本の民法(私法全般)でも,基本的に,これが原則です。
ただし,この原則には,当然,例外があります。賃借人が一定の要件を満たしている場合には,物の所有者が変わっても,賃貸借契約は新所有者との間でも有効なものとして残る,という法律があります(そして,その「一定の要件」は,とても簡単なものにされています)。
上の報道は,「売買は賃貸借を破る」原則の,例外に関するものです。
特許使用権が契約されている場合に,特許権の権利者が変われば,特許使用権の契約の効力は無くなるのが原則です。
その例外として,従来,「特許契約を特許庁に登録すること」を要件に,特許権の権利者が変わっても,特許使用権の契約は新権利者との間でも有効なものとして残る,とされていました。
しかしながら,「特許契約を特許庁に登録すること」という要件があまり現実的なものではなく,実情として,この要件を満たしているケースがほとんど無かった,というのです。
政府の方針として,この要件を,別の,より利用しやすいものに差し替えるそうです。現時点では,どのような修正(要件)になるのかは分かりませんが。
そもそも,なぜ「売買は賃貸借を破る」のが原則かと言うと,新所有者の保護が目的です。
特許使用権者の利益の保護を強めると,新権利者の利益を損なう可能性があります。
あちらを立てればこちらが立たず。法改正で,このあたりのバランスをどうつけるのか。
ともかく,正確な情報が待たれます。