権利保護保険

投稿者: | 2013年7月26日

プリベント少額短期保険株式会社なるところが,弁護士費用保険【Mikata】なる保険商品の販売を始めました。

いわゆる「権利保護保険」と称されるジャンルの保険です。

自動車保険の「弁護士費用特約」と同じジャンルですが,こちらの商品は,「自動車事故」といった限定無しで,弁護士への相談・依頼の費用を補償してくれます。

保険料の高い安いは別として(自動車保険の特約は年2000円前後),保障内容としては,画期的に見えます。

 

もっとも,およそ保険会社が利益を確保するためには,契約者をたくさん確保して,その大半が保険を使わない,という状況が必要です。

したがって,この商品の成否の鍵は,1つは,契約者をたくさん確保できるかどうか。

そのためには日弁連との連携が必要だろうと思うけど,どうも,そのような動きはなさそう。

 

2つ目の鍵は,保険料収入に対して,保険金支出のバランスを取れるかどうか。

当然,保険会社としても対策しています。 「保険金が受け取れない場合」のページです。

まず法律相談の局面ですが,同ページに「法律相談料保険金をお支払いできない主な場合」とあり,たとえば,

・他人から具体的な請求を受けていないにもかかわらず、請求を受けた場合の対応方針を問うもの

・請求権の根拠となる具体的な事実がないにもかかわらず、他人に対して請求しようとするもの

・被保険者が相手方に請求する額、もしくは相手方から請求されている額が、5万円程度未満のもの

・被保険者が相手方に請求する額、もしくは相手方から請求される額の算定が困難なものであって、社会通念に照らして法的紛争になじまないと考えられる軽微な問題

・法律上の論争もしくは解釈に関するもの(被保険者が直面するトラブルに関する場合を除きます。)

といった記載があります。

このあたりを文字通りに適用すると,一般的な町弁が日常的に受けている法律相談のかなりの部分は,対象外となるかもしれません。

 

次に事件依頼の局面ですが,同様に「弁護士費用等保険金(着手金・報酬金・実費など相談料以外の保険金)をお支払いできない主な場合」とあって,除外項目が列挙されています。 見ると,

・借金問題,事業上のトラブル,刑事事件・少年事件などはすべて除外

・勝訴の見込みがないものも,対象外

と,されています。

最後の「勝訴の見込みがないもの」との点は,法テラスの民事法律扶助が「勝訴の見込みがないとはいえないこと」を要件としているのに比較しても,ハードルが高そうです。

 

日弁連との提携の動きがない理由の1つは,除外事由の広さのせいかもしれません。

日弁連としては,

(1) 相談の前に保険会社の事前審査が必要になる,というのは受け入れがたいし,

(2) 相談の後で保険金が出ない可能性がある,というのではタイアップできません。

結局,このあたりのバランスは,運用と実績に頼るしかないのですが,私としては,プリベント少額短期保険の企業風土等は知りませんので,これ以上はコメントできません。

 

関連しますが,日弁連の「権利保護保険」のページには,タイアップしている保険会社が列記されています。

実は,弁護士費用特約を販売していても,日弁連とタイアップしていない保険会社・共済組合が,相当数あります。

実務上,小規模の物損事故等の場合に,時折,「弁護士費用を出せるかどうか決裁がいる」と言われて,待たされることがあります。 あるいは,契約者に対して,「弁護士に依頼するまでもない」と牽制したり,自社の顧問弁護士と相談・契約するよう指示したり,といったケースも聞きます。

そういうのは,決まって,日弁連とタイアップしていないところです(その中の一部の,特定のところです)。

今のところ,明らかに不当と言える運用とは言えませんが,今後もそうである保証はありません。

注意深く,観察しているところです。