(日本経済新聞2010/7/10より)
認知症の女性(83)に計3000万円以上の着物などを販売した契約は無効だとして,家族らが「京ろまん」(奈良市)に返還などを求めた訴訟の判決で,奈良地裁(宮本初美裁判官)は10日までに,約1390万円分の売買契約を無効と判断し,同社に返還を命じた。判決によると,女性は1999~2007年,同社から計約3590万円分の着物や装飾品を購入していた。
宮本裁判官は判決理由で「老後の生活に充てる資産をほとんど使ってしまった。通常の商取引の範囲を超えるもので民法の公序良俗に反する」と指摘。「担当者が個人的に親しい友人関係があるよう思い込ませ,強い希望や必要のない商品を購入させた」と非難した。
その上で,女性が認知症と診断された04年以降の契約について「女性の能力に問題があることに気付くことができたはずで,無効」と判断した。
記事の情報から,認知症診断の時期を境に見てみると,1999~2003年の4年間で約2000万円,2004~2007年の3年間で約1400万円。
1年あたり平均500万円くらいの,同じペースでの買物です。
裁判所は,1999~2003年の取引は有効,2004~2007年の取引は無効と判断しました。
こう分析してみると,裁判の限界を感じてしまいます。 実態として,2004年と2003年とで,ご本人の状況のそれほどの違いがあったものか,甚だ疑問です。
この事案では,ご本人さんが認知症の診断を受けていたというエピソードがあったから,一部ながらも,取戻しができました。
ご本人さんの状況について,身内の方が「何かおかしい」と感じていたとしても,客観的な証拠によって立証できなければ,裁判所は,なかなか主張を認めてくれません。
「何かおかしい」と思ったら,ご本人さんに医師の診断を受けてもらい,場合によっては成年後見の申立てをする等の対策が必要です。