【6/1】「公証人ミスで遺言無効に」 国に賠償求め提訴

投稿者: | 2010年6月3日

(47NEWS2010年6月1日より)
 法務大臣が任命した公証人の過失で遺言書が無効になり,遺産の相続分が減る可能性があるなどとして,尼崎市の男性(65)が1日までに,国を相手に約550万円の損害賠償を求める訴えを神戸地裁尼崎支部に起こした。遺言書をめぐって公証人が訴えられるケースは珍しいという。
 訴状によると,男性の父親が,土地と預金(合計2400万円相当)を男性に相続するという遺言書を残し2008年に死亡。しかし,遺言書を作成する際,2人以上必要な立会証人のうち1人を,公証人が誤って資格のない男性の妹の夫にした。
 そのため,男性は相続権のある弟から遺言書の無効を求める裁判を起こされるなどし,すべて1人で受け取れるはずだった遺産を分割しなければならない可能性があるという。
 男性は「公証人は身分関係の確認を怠った上,漫然と遺言書を作成して義務を尽くさなかった」などと主張。遺言書が無効の場合,弟に支払わなければならない約400万円や,精神的苦痛を受けた慰謝料100万円などの支払いを求めている。
 訴えに対し,公証人を所管する神戸地方法務局は「内容を確認した上で適切に対応したい」としている。
(2010/06/01 16:02)

 公正証書遺言が無効となることは珍しいですが,この事案では,手続要件を満たしていないので当然に無効となります。
 公正証書遺言には証人2人が必要ですが(民法969条),「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」は,証人となる資格がありません(民法974条)。
 記事のケースでは,受遺者の妻(配偶者)を,証人にしてしまったようです。

 公正証書遺言の作成段階では,証人資格について,公証人から確認するのが通例です。
 また,受遺者と姓が同じはずですから,利害関係者であることも気づけたはずです。
 証人らが嘘をついた等の事情でもない限り,公証人の責任は免れないと思います(公証人は公務員ですから,国が責任を負います)。

 なお,このブログでは,基本的に,提訴・交渉中の段階の事案の記事は載せないようにしていますが,このケースは,とても珍しく,かつ,法的責任が分かりやすい事案なので,紹介します。