(毎日jp2009年12月25日より)
北海道北斗市の知的障害児施設で2004年,重度の自閉症の長男(当時16歳)が入浴中におぼれて死んだのは,施設側が安全配慮を怠ったためとして,青森県野辺地町の両親が施設を運営する社会福祉法人「侑愛会」を相手に,逸失利益など約7340万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が25日,青森地裁(貝原信之裁判長)であった。貝原裁判長は約600万円の逸失利益を認め,慰謝料などと合わせた約3247万円の支払いを命じた。
貝原裁判長は判決で「障害者への理解は徐々に深化している」とし,長男が就労する可能性を判断。支援などを受ければ,授産施設より高い賃金を得られる状況にあったと認定した。その上で「社会条件の変化を考慮すれば,最低賃金に相当する収入は得られた」として,当時の青森県の最低賃金に基づき,得られたであろう収入から生活費などを差し引き,逸失利益を約600万円と判断した。
判決によると,長男は04年7月,寮で入浴中にてんかん発作を起こして水死した。施設職員は発作の危険性を認識していたのに見守りを怠るなどした。
色々考えさせられる判決です。
日本法における損害賠償請求権は,「実費」+「慰謝料」という構造で,認定されます。
もちろん,「実費」と言っても,現実化した出費・損害に限るものではなく,本事案で争点となった「逸失利益」(将来,得られたであろう収入)のように,仮定上・計算上の損害も含みます。
もっとも,仮定といっても,全くのフィクションではありません。その仮定が,相当程度,現実化する可能性があったのでなければ,「実損」と言うことはできないからです。
この裁判官が示した価値判断は,現実社会における重度障害者受入れ態勢のシビアさからすれば,やや理想的に過ぎる想定のような印象があります。
今後,この裁判官が示した判断に,他の裁判官が追随するのかどうか。
注意して,観察して行きたいと思います。