先日、損保代理店様向けに「自動運転車の現況と展開」というテーマで話をする機会がありました。
それに際して改めて現状を確認・考察し、すさまじい状況であることを再認識しました。
重要なテーマですから、広く情報提供します。
なお、以下で引用する資料は、アトラス法律事務所のHPにも掲載しておきます。
→ 交通事故、相続、代理店・福祉業支援|福岡のアトラス法律事務所
自動運転って何だろう
未来の車は、人が運転しません。想像を絶する「異世界」です。
自動運転の技術レベルは、4つの段階に区切られます。
車の運転の3要素、つまり、アクセル、ハンドル、ブレーキについて、
- 第1段階 3要素のうち1つの自動化
- 第2段階 3要素のうち複数の自動化
- 第3段階 3要素全ての自動化、ただし緊急時は運転手操作
- 第4段階 完全な自動化
今、第1段階は既に「普及」段階となってます。
スバルの「アイサイト」が有名ですね。
第2段階も、既に実用化されています。
日本のメーカーでは、日産セレナの「プロパイロット」がこれにあたります。
第3段階は、たとえば「航空機」を想像してください。
ほぼ自動で飛行するが、緊急対応はパイロットが行う。
第4段階は、たとえば「ゆりかもめ」。
運転士は乗ってません。
自動運転車の最終目標は、もちろん第4段階です。
町中を走る車に、まったく運転手が乗ってない世界です。
未来って、いつのこと?
自動運転車が当たり前になるのは、子や孫の時代ではない。
今のペースだと、10~15年先の近未来に、普及期に入りそうな勢いです。
自動車製造業が、日本の基幹産業であることに異論はないでしょう。その一大産業が、もしも自動運転車の流れに乗れなければ一気に崩壊するかもしれない。
自動運転車の推進は、まさに、官民一体の喫緊の課題です。
政府は、「2025年」には第4段階の実用化を果たそうと、旗振りしています。
まず、安倍総理が2013年に『世界最先端IT国家創造宣言』を発表し、それを背景に、2014年、「官民ITS構想・ロードマップ」が発表されました(以下「ロードマップ」)。
[用語] ITSとは、最先端の情報通信技術を用いた「高度道路交通システム」のこと。自動運転車はインフラの一部です。
「2025年」までわずか「8年」。
そこで実用化された技術は、熟れるのに多少の時間がかかるでしょう。それでも、「10~15年先に普及期」って決して空虚な想定ではない。
それって現実の話?
ロードマップは、総理大臣を本部長とし、内閣官房が事務局を務める「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(通称・IT総合戦略本部)で議論されています。
具体的に動いているのは、IT総合戦略本部内の、「データ活用基盤・課題解決分科会」中の「道路交通ワーキングチーム」(以下「WT」)。
自動運転車の実用化には、道交法や自賠責法などの改正が必要であり、民事責任や損害保険の在り方にも大きく影響します。セキュリティやプライバシーの問題も重要です。
WTでは幅広く検討されています。
ロードマップは、上記のとおり2014年に出たあと、2015年、2016年と改訂されました。現在は、2017年版が議論されています。
この手の計画って3年~5年ごとの見直しが多いのに、毎年更新って、それだけでも政府の本気度が分かりますね。
最新のWT(第4回会合・平成29年3月28日)では、次のような議論がされています。
- [アトラス] サマリー
- [アトラス] 自動走行の民事上の責任及び社会受容性に関する研究
- [アトラス] 自動運転制度整備大綱に向けた基本的考え方(案)
2015年10月には、小泉進次郎議員により「国家戦略特区プロジェクト」が発表され、第4段階の研究開発の基盤整備がスタートしています。
さらに安倍総理は、2017年2月16日の「第5回 未来投資会議」で、次のように発言しています。
[アトラス] 第5回「未来投資会議」議事録
- 2020年までに、運転手が乗車しない自動走行によって地域の人手不足や移動弱者を解消します。
- 来年度から公道での実証を2種類実施します。まず新東名で、運転手が乗車する先頭トラックを、無人の後続トラックが自動的に追走できるようにします。また、全国から公募などで選ばれた10か所で、無人のバス・タクシーなどを遠隔制御で運行させます。
- これらを可能とする制度やインフラを国家戦略特区も活用して整備し、事業化につなげます。
本気も本気、チョー本意気です。
もちろん民間(自動車メーカー)も、乗り遅れないよう必死に開発してます。掛け値なしに死活問題ですから。
むしろ「10~15年先」を普及期にできなかったら、「敗北」なのかもしれません。
普及のペースはどうなる?
前提として、自動運転車は、人が運転するより「安全」だからこそ正当性を備えます。
逆に言うと、自動運転技術が確立すると、人の運転は(相対的に)「危険」です。
自動運転車がより「安全」であるためには、非自動の車を排除する必要がありそうです。
とすると、自動運転技術が確立すれば、否応なく、早急に置き換わる流れになると思われます。
直接的な法規制がされるかもしれないし、
はたまた、非自動の車の保有がハイコスト化されるかも・・・。
ライフスタイルが変わる!
自動運転車が普及すると、高齢ドライバー問題が解決に向かいます。交通難民も解消されます。渋滞もなくなるでしょう。
もちろん、交通事故も減ります。
そして、車の台数が減るのは確実です。「無人バス」や「無人タクシー」を使えば事足り、無理して車を持つ必要がないからです。
というか、想像以上に車が減るんじゃないか。特に自家用車って、ほぼなくなるんじゃないかって気がします。
自動運転車に乗る人はすべて「乗客」です。わたしたちの頭から「車を運転する」という概念が消えていくのです。
近未来は、社会全体で「カーシェアリング」する方向に進むのではないでしょうか。
弁護士や代理店への影響
自動運転の第1・第2段階は、今の賠償・保険の実務から大きく変わるものではない。
一方、第3段階以降は、事故が起こったら、もっぱら製造物責任の問題となります。
過渡期には、運転者の賠償責任と競合することが少なからずあるでしょう。
それでも、自動運転車の絡む事故では、少なくとも「原因究明」の段取りが大きく変わります。
たとえば航空機事故のときに「フライトレコーダー」が回収・解析されるのと同じように、自動運転車の事故でも、製造物責任の有無・程度が解析されることになるはずです。
損害保険も、製造物責任がメインストリームとなります。
自動車メーカーが契約者となるので、保険メーカーとの直接のやりとりで、ほとんど完結するでしょう。
自動車保険がなくなることはないとしても、内容は大きく変わらざるを得ない。個人賠(メンテナンス義務違反など)や、自賠責の延長(被害者救済的な保障制度)のようなものになるかもしれません。
事故の減少にともない、保険料も下がっていくでしょう。
いずれにしても、自動車保険のマーケットは、ここ10~15年で大きく変わります。おそらく急速にしぼんでいきます。
わがアトラス法律事務所にしても、交通事故の損害賠償について蓄積した高度のノウハウが、ほとんど「時代遅れ」となります。
もちろん、産業が隆盛すること、事故が減ることはとても喜ばしい。
事業者は、新たな社会で、新たなニーズを汲み取っていくだけです。