人身傷害条項についての最判

投稿者: | 2012年2月22日

最高裁判所第一小法廷・平成24年2月20日

【要旨】
1 人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社は,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得することはない。

2 人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合,保険金を支払った保険会社は,上記保険金の額と過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る額の範囲で損害賠償請求権を代位取得する。

 

Xを被害者とし,Yを加害者とする交通事故で,
Xの損害積算額が金7828万円(a)で,過失が10%あり,XのYに対する損害賠償請求権(額)は金7045万円(b)であるところ,
Xは既に,自分の加入する自動車保険の保険会社Iから,人身傷害保険金5824万円(c)を受け取っている,
という事案。

XがYに対して提訴。
争点は,XがYに対して請求できる範囲。 すなわち,Xの請求権から,Iの代位取得部分を差し引いた残額が,いくらであるのか。

判旨は,Iの人身傷害条項の約款解釈として,
1 保険金はすべて元金に充てられる。
2 人身傷害保険は過失不問となっているので,まずは被害者の過失割合部分に充当する。
ということを言っているようです。

うち2に関し,Iが代位取得する(XがYに請求できない)金額について,次の計算式を提示しています。
(c) + (b) – (a)

 

なんか,金額が微妙で分かりにくいので,判例の事案をベースに,数字を入替えてみました。

たとえば,Xの損害が1000万円,過失が3割(300万円相当)とすると,Xの請求権は700万円である。
また,Xは,自身の保険会社Iから,人身傷害保険金400万円を受領した,とする。

この場合,Iが代位取得するのは100万円(=400+700-1000)のみである。
したがって,Xは,600万円(=700-100)を,Yに請求できる(別途,IはYに100万円を請求できる)。

充当計算としては,人身傷害保険金400万円を,まずはXの過失分(300万円)に充て,その残り(100万円)の限りでIに権利移転する,ということになります。
つまり,Xは,1000万円の損害のうち,過失分はIから保険金を受け取り,その余はYに請求する(ただしIから受け取った保険金のうち,過失分を超えた部分は,既払い金扱いとする)ということ。

要は,人身傷害保険金の無過失性を,被害者に不利にならないように斟酌したものだと思います。
(※ざっと読んだもので,不正確な要約かもしれません。)

 

人身傷害保険については,様々な論点があり,判例の蓄積が足りません。
基本的には事例判断ですが,最高裁判例の価値判断は,参考になります。