(西日本新聞2010/06/15より)
原則70歳以上に上乗せ支給されていた生活保護の「老齢加算」が減額・廃止されたのは生存権を保障した憲法25条に違反するとして,北九州市に住む74-92歳の男女39人が,市の処分取り消しを求めた控訴審判決で,福岡高裁(古賀寛裁判長)は14日,請求を棄却した一審福岡地裁判決を取り消し,全員の減額処分を取り消した。原告側が逆転勝訴した。
判決理由で古賀裁判長は「保護基準の改定は裁量権の逸脱または濫用(らんよう)で,正当な理由がない不利益変更にあたる」として,老齢加算廃止による減額は生活保護法違反と判断した。
老齢加算をめぐる一連の訴訟で,原告の勝訴は初めて。ただ判決は,生存権を保障した憲法25条に違反するかどうかは明確に判断しなかった。判決は,「生活保護の認定判断は厚生労働相の裁量に委ねられる」とした最高裁の判断を踏襲。その上で,厚労省の専門委員会が老齢加算の廃止を答申したわずか4日後に予算決定した点をとらえ,「考慮するべき事項を十分に検討しておらず,社会通念に照らして著しく妥当性を欠いた」と指摘した。
判決によると,老齢加算は1960年,高齢者には食費などで「特別な需要がある」として創設。市は原告に月額1万7930円を加算して保護費を支給していたが,国の段階的な廃止決定で2004年4月から1年ごとに減額し,06年3月で廃止した。
昨年6月の福岡地裁判決は「廃止に著しく不合理な点は認められず,違憲,違法なものではない」として訴えを退けた。老齢加算をめぐっては全国8地裁で同種の訴訟が起こされたが,東京,京都,広島の3地裁でも敗訴。今年5月に東京高裁でも,原告側の請求が棄却された。
【判決骨子】
◇生活保護は国の恩恵ではなく,法的権利
◇老齢加算廃止の際,受給者の不利益を考慮しておらず,激変緩和措置も検討されていない
◇廃止は著しく妥当性を欠いており,正当な理由はない。廃止による減額を取り消す【老齢加算】
生活保護受給者で原則70歳以上の高齢者に対し,基準生活費に一定額を加えて支給していた制度。高齢者は栄養のある物を食べる必要があるほか,孤独にならないための交際費がかさむなど「特別な需要がある」として,1960年に創設され,都市部では最高で月1万7930円が上乗せされた。対象者は2005年度で約30万人。財政悪化を理由に04年度から段階的に減額され,06年3月に全廃。母子加算も昨年4月で廃止されたが,政権交代後の同12月に復活した。
生活保護は,国の事業ですが,その実施は,地方公共団体に委託されています(法定受託事務)。
記事のように,全国8箇所で裁判が提起されていますが,これは,各地の有志の弁護士が,協調して,行っているものです。
日弁連では今年,長年,貧困問題に取り組んできた 宇都宮健児 氏が激烈な選挙の末,会長に就任しました。 それ以前からも,日弁連では,生活保護受給に対する支援など,貧困問題への対策に力を注ぐ流れがありました。
裁判所の判断は,別れています。
特に,ついこの間の5月27日,東京高裁で原告敗訴となっていることが大きい。 東京高裁は,全国の高裁の中でも,権威(裁判所内の序列) としては,やはり高位です。
今回の福岡高裁での原告勝訴によって,国に対して,どうしても方針変更しなければならないような,強い動機付けは生じないと思われます(選挙絡みで,政治的な判断が為されるきっかけとなるかもしれませんが…)。
最高裁の判断が待たれます。
ときに,母子加算,老齢加算については,厳密に考えれば,よく分からない制度です。 特に,高齢者の「特別な需要」なんて言うのが,本当に合理性があるのか,疑問です。
ただこういうのは,もともとの生活保護費のレベルが低いということを出発点に,考えるべきなのでしょう。
全体に対して低いレベルの保護費を設定し,ひっぱりあげる根拠を見い出せる層のみに一定の加算をする。 そうやって,コストを抑制しつつ,保護の実効性を確保する,という政策的対応です。
苦しい生活に耐えながら,生活保護に頼らずに凌いでいる方もたくさんいます。 生活保護受給者に味方するような判決等に対しては,ネットで,批判的な記事が目立ちます。
ただ,たとえば,個人が貯蓄したり,保険に入ったりするのは,安心を得るためです。
生活保護という制度があり,それなりに運用されていることも,大きな安心感を与えてくれます。
それに,貧困層の下支えをすることは,治安面でも重要なのです。