脳脊髄液減少症の現状

投稿者: | 2010年4月12日

髄液減少症,検査は保険対象=治療法は2年後適用目指す-厚労省
(時事ドットコム2010/04/12より)
 髄液が漏れて頭痛や目まいを引き起こす脳脊髄液減少症について,厚生労働省は12日,検査は保険適用になるとの見解を明示した。医療機関に周知を図るため,近く通知を出す。効果があるとされる治療法「ブラッドパッチ」についても,2年後の適用を検討する。同日,同省内で開かれた民主党議員連盟の会合で,長妻昭厚労相が表明した。
 この病気は確立した診断基準がないため,診断名が付くまでに長期間かかったり,治療費が全額自己負担となるなどの問題があり,患者が保険適用を求めている。

脳脊髄液減少症,HPで情報提供 広島県
(中国新聞2010/4/8より)
 広島県は,交通事故など何らかの衝撃で脳や脊髄を覆う髄液が漏れ出し,頭痛などを発症する「脳脊髄液減少症」について,医療機関の診療体制や相談窓口の情報提供をホームページ(HP)で始めた。
 県健康対策課のHPに,診察や治療をしている県内35カ所の医療機関と診療科名,連絡先の一覧表を公開。相談機関として広島大病院の難病対策センター(広島市南区)を紹介している。患者や支援者でつくる団体が昨年10月,診療実態の調査や情報公開を県に要望していた。
 脳脊髄液減少症についてはその存在が医学界に定着しておらず,厚生労働省が診断や治療の基準策定に乗り出している。自分の血液を脊髄を覆う膜に注入し,凝固作用で漏れの原因である破れ目をふさぐ「ブラッドパッチ療法」が有効な治療法とされるが,現状は健康保険の適用外となっている。

脳脊髄液減少症の研究足踏み 遠のく望み 治療指針先送り
(河北新報社2010年04月04日より)
 交通事故などの強い衝撃で髄液が漏れ続け,慢性的な頭痛やめまいを発症する「脳脊髄液減少症」の診断,治療のガイドラインづくりが遅れている。厚生労働省の研究班が2009年度内の策定を目指していたが,症例不足で先送りされた。治療への健康保険適用や負担軽減策は遠のき,患者に不安が高まっている。
 厚労省は07年,脳神経外科や整形外科などの専門家が参加する脳脊髄液減少症の研究班(班長・嘉山孝正山形大医学部長)を設置。体系的な診断,治療のガイドラインづくりに着手した。 研究終了年度の09年度,集まった症例は70例で,目標の100例には届かず,指針は策定できなかった。研究は10年度以降も継続されることになった。 研究班の佐藤慎哉山形大教授(脳神経外科)は「患者の症状,治療経過を限定したため,該当者が少なくなった。10年度内には指針の検討結果を出せる」と説明する。
 治療には,硬膜の外側に患者自身の血液を注射して髄液漏れを防ぐ「ブラッドパッチ」が有効とされるが,健康保険は適用されない。入院費を含め1回約30万円かかる。
 03年から脳脊髄液減少症の治療に取り組む国立病院機構仙台医療センター(仙台市宮城野区)の鈴木晋介医師は「患者負担が大きいだけでなく,保険適用外の治療を嫌がる病院は多い。保険が認められれば治療する病院も増える」と指摘する。
 ブラッドパッチの保険適用は,早くても2年後の診療報酬改定を待つ必要がある。「減少症自体を認めない医療関係者がまだ多い」(鈴木医師)のも現実で,治療機関は一部に限られる。

 脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群とも呼ばれます)は,比較的新しい疾患です。 新しいとは,それが疾患だと認識・把握されるようになったのが最近,ということです。
 交通事故などでの外傷を契機に発症することが多く,交通事故事件を取り扱う弁護士にとっては,よく耳にする疾患ですが,一般には,まだ馴染みがないかもしれません。

 交通事故に関する保険実務は,自賠責を核にしています。 後遺症の有無・程度は,自賠責が認定するかどうか。任意保険会社が,自賠責が認定しない後遺症を,独自に認定することはありません。
 しかし,自賠責は,基本的に,行政機構です。 行政(自賠責)は,画一的・定型的な処理を特徴とするもの。つまり,予め基準を定めた上で,基準に合致するものは簡易・迅速に救済し,基準に合わないものは切り捨てる,というやり方をします。
 行政で救済されない,基準外の,非定型・非典型的な疾患については,司法(裁判)の手続きによって,救済を目指すしかありません。 司法は,行政と異なり,個別救済のための機構ですから,行政が切り捨てたケースが,司法によって救済されることも,ままあります。

 非定型・非典型的な疾患については,自賠責(ひいては保険実務)では,なかなか十分な救済はされません(症状の一部について後遺症認定されることはありますが,限定的です)。
 同様の問題は,高次脳機能障害,むちうち(外傷性頸部症候群),RSD(反射性交感神経性ジストロフィー),PTSD(心的外傷後ストレス障害),線維筋痛症などでも生じます。

 脳脊髄液減少症は,ガイドライン策定に難航していることからして,医師らの間で,概念が固まっていないものと思われます。
 このような疾患について,裁判で争っていくことは大変ですが,それだけに,弁護士のサポートが重要だと思います。