【8/1】「会計士浪人」を救え! 試験制度またもや大幅改革へ

投稿者: | 2010年8月3日

(アサヒ・コム2010年8月1日より)
 「難関」と言われる公認会計士試験に受かったのに,就職できない「会計士浪人」が急増している。企業に勤める財務の専門家を増やそうと4年前から合格者を増やしたが,ふたを開けてみれば,企業は受け入れる態勢になっていなかった。 国は再び試験制度の見直しを検討し始めた。

 会計士は国家資格で,金融庁が試験をしている。会計士の資格を得るには,会計士試験に合格後,企業か監査法人などで会計監査の実務を2年以上積まなければならない。
 金融庁は2006年,「企業内の専門家など幅広い分野で活躍が期待される」として,合格者数をそれまでの1000人台から2000~4000人台に増やした。ところが,08年の合格者のうち企業に就職したのは1~2%。 試験合格者ではなく経験のある会計士を求める企業が多く,合格者が実務経験する環境も整っていなかった。
 「合格者は会計の実務経験が積めるか不安が強く,企業への就職希望者が少ない」(金融庁)という。
 監査法人や会計士事務所も09年には,不況で採用者数を大幅に減らした。 日本公認会計士協会によると,今年3月末で,09年の合格者約2200人のうち約600人が未就職で「受かっているのに資格が取れない状況」という。

 金融庁は昨年12月,産業界や会計士協会などとつくる懇談会で試験の見直しを検討し始めた。 試験を2回に分け,難易度を下げた1次試験の合格者にも何らかの資格を与える案が有力だ。 1次試験後に企業などに就職して実務経験を積み,その後,2次試験に合格すれば会計士になれるようにする。 企業に勤めても資格を取りやすくするため,実務や講習の条件も緩くする。
 懇談会は今年夏にも方向性を出す。 これに基づき,最短で来年の通常国会で公認会計士法を改正し,その3~4年後に制度が変わる見込みだ。

 一方,会計士の質をどう向上させるかの議論は迷走している。 企業の不正決算では会計士が虚偽の監査証明を出す例が相次いでいる。 06年の試験改革では「監査の質的向上」も目標にしたが,その後も会計士が不正決算を見過ごす例が後を絶たない。
 会計士協会は「資格を取りやすくすれば,質の低下につながりかねず,合格者数を減らすべきだ」と主張する。 一方,金融庁は「会計士へのニーズは今後も大きい。 質の問題は別の方法で解決すべきだ」という姿勢で,資格取得後の研修を受けなければ資格を一時無効にする対策などを提案する。 だが,今のところ具体策はまとまっていない。

 「会計ビックバン」のお題目と並行して行われた会計士制度改革。
 司法改革の迷走と同じか,それ以上の迷走っぷりです。

 国家試験を課される専門職は 色々あります。 国家試験は,いずれも,利用者の利便性のために,一定の質を確保する目的で 実施されるものです。
 そして,専門職の中でも,特に利用者に大きな影響を与える職種については,国家試験の他に,質の向上のためのシステムが用意されています。
 この,プラス・アルファ部分は,「実務経験」を受験要件等とするパターンと,「研修」を課すパターンに大別されます。
 「実務経験」型は,建築士とか,会計士。
 「研修」型は,医師や,弁護士。

 昨今,会計士も弁護士も,国家試験合格者の大量増員が図られています。 このため,どちらの世界も就職難ですが,
 会計士は,「実務経験」を持たないと 正式な資格取得ができない,
 弁護士は,「司法修習」(研修)には必ず参加でき,それを終えれば 弁護士として稼働できる,
という点が,著しく異なります。

 つまり,
 会計士の世界では,「実務経験」要件の縛りで,事実上,新規参入者の大量流入が阻止されました。 既存の会計士の権益が守られる一方,新規参入者の惨状が顕著です。

 弁護士の世界では,大量の新規参入者が,劣悪な条件下に業務をスタートする事態になっています (司法修習以前に自費でロー・スクールを卒業する必要があること,司法修習生への給与支給が廃止されること,といった制度変更で,新規参入者の経済状態は 惨憺たるものです)。 職業倫理が低下し,業界が様変わりすることは必至で,既存の弁護士もこれに巻き込まれます。

 会計士と弁護士で,どちらが より悲惨であるかは,誰の目線に立つかによって 評価が分かれるでしょう。
 利用者にとっては,恐らく,弁護士業界の混乱の影響が 圧倒的だろうと思います。